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2017年05月18日(木)  【高等教育】大学で働いて数年ぐらいの人のための本
高等教育機関で働き始めて数年ぐらいの方へのお勧め本というのは意外とチョイスが難しい。いくつか思いついた理由としては次のところ。

  1. い意味でも悪い意味で業界慣れしてしまい、生半可な本を進めると「そんなこと知ってる(深い意味で知ってるかどうかはさておき)」となる。
  2. 少しハードな本だと「ディープ過ぎる」と結局読まれないということも。
  3. 業務の専門に踏み込んだ本だと、その専門以外の方は関心を示してくれないということもあります。
  4. 専門的であればあるほど、本の寿命が短くなってしまうことも。古典とまではいかなくても十年以上耐えられる本は結構少ない。
  5. そもそも高等教育に限らない、他のジャンル(経営学とか)のほうが有用なお年頃かも。

「この専門分野でのお勧めは?」ぐらいになるとその分野内でお勧めはあるのですが、そうでない場合は「大学組織特有の原理を扱ったもの」か「歴史的なもの」に落ち着くように思います。ということで前者から三つ、後者から三つお勧めを。

1.『私立大学のクライシス・マネジメント』(小日向允、論創社、2003年)
http://www.amazon.co.jp/dp/484600371X
【短評】複数の私大で重職を歴任した経験から語る実直な大学組織・大学職員論。職員に求められる能力として「あいまいさに堪える能力」(p.214)の重要性は何度読み返してもうなずけるもの。

2.『組織におけるあいまいさと決定』(J.G. マーチ & J.P. オルセン、有斐閣、1986年)
http://www.amazon.co.jp/dp/4641180121/
【短評】理論と異なり、実際の組織や個人は、完全に合理的・経済的な判断を行えるわけではない。最善の意思決定なされるというよりも、たまたまの解が選ばれたり、あるいは意思決定自体が先送りになることも珍しくない。そうした組織の意思決定の流れを、学校・大学を事例として論じている。

3.『大学経営とリーダーシップ』(ロバート・バーンバウム、玉川大学出版部、1992年)
http://www.amazon.co.jp/dp/4472101718
【短評】前述の『組織におけるあいまいさと決定』と同じく、客観的な合理性・意思決定を現実の社会で行うことは難しいというスタンスに立ち、大学の組織システムと意思決定を論じたもの。

4.『未来形の大学』(市川昭午、玉川大学出版部、2001年)
http://www.amazon.co.jp/dp/4472302586
【短評】ここからは歴史もの。大学とはそもそも何であるかを論じ、引き続き日本の高等教育の諸制度・諸改革がどのような意味を持つものであるか、論じている。

5.『大学改革1945〜1999』(大崎仁、有斐閣、1999年)
http://www.amazon.co.jp/dp/4641280274
【短評】戦後の大学諸制度がいったいどのようにして出来上がったのか、またその諸制度の創設者や各プレーヤーはそれをどのように位置づけ、解釈していたのか。そうしたことを高等教育行政の当事者が丁寧に解きほぐす一品。

6.『プロムナード東京大学史』(寺崎昌男、東京大学出版会、1992年)
http://www.amazon.co.jp/dp/4130033026
【短評】「東大のコピー」という言葉はネガティブな意味で使われることがほとんどであるが、実際のところ、近代の我が国の大学の諸元は東京大学にある。よかれあしかれその影響は全ての大学が受けて現在に至っている。東大の歴史の一つ一つは日本の歴史の一つ一つでもある。取り上げられているエピソードの多くは東大史というよりも、日本の大学の一つ一つの制度・慣習がなぜ成立したかを学びうるものとなっている。なお、文庫版が『東京大学の歴史 大学制度の先駆け』(講談社学術文庫)として出されている。


ここではちょっと取り上げてないですが、「歴史的なもの」に興味のある方はぜひ天野郁夫先生の『大学の誕生』や『新制大学の誕生』もお読みください。
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