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2017年05月04日(木)  【将棋】若き才能とAI
このブログで将棋界に触れるのは半年ぶりになる(というよりブログが半年ぶり)。その間、棋界で様々なことがあったが、今回は藤井聡太四段とAI(将棋ソフト)についてちょっと書いておきたい。

まず藤井聡太四段である。昨年奨励会を突破しプロ棋士となったが、その年齢が14歳2か月。これまで中学生でプロ入りを決めたのは5人、うち中学生のうちに実際にプロとして棋戦に参加した者は4人である。そのいずれの者よりも若い、最年少記録でのプロ入りとなった。公式戦では現在15勝0敗と負け知らず。非公式戦では若干負けが入っているようだが、炎の七番勝負と題された非公式戦では6勝1敗と素晴らしい結果を残した。まさに棋界の至宝となるであろう。

次にAI(将棋ソフト)である。2016年10月2日の記事でも触れたが、もはや人間が勝てるレベルでは無くなっている。つい先月、佐藤天彦名人が将棋ソフト「PONANZA」と対局した。PONANZAは初手から人間の発想では浮かばない手(▲3八金)を指したばかりでなく、その後の展開も佐藤名人を寄せ付けない圧倒的な差し回しで勝利を収めた。

ソフトが強くなったのは、将棋に限らない。囲碁の世界では少し前、「Alpha Go」というソフトが世界でも3本の指に入る強豪を相手に勝ちを収めている。「Alpha Go」はディープラーニング(機械学習の一種)という技術を用い、コンピュータが自分自身と何万・何十万回と練習試合を行い、その結果をフィードバックして自らを強化しているという。このフィードバックはどんどん蓄積される一方なので、今後人間が勝てる見通しはほぼ無いものと思われる。

このような時代において、「将棋のプロを目指すということ」は、昔とは異なった意味を持たずにはいられない。

例えばプロの仕事に、対局の解説があるが、現在では棋士の指し手は一瞬でAIに解析されてしまう。我々素人がPCを使ってプロ棋士の指し手一つ一つを解析し、傍目八目どころではないレベルで手の良し悪しを評することもできるのである。AIの判断結果の言語化は困難な課題であるが、京都大学の森信介教授の研究室ではまさにそのような研究に取り組まれている。将来的には、解説業もAIに取って代わられる可能性が大きい。

私見ではあるが、プロ棋士の仕事は「人間同士の究極の強さを競うこと」、「対局を単なる手の良し悪しではなく物語化すること」、「棋界全体をマネジメントすること」の三つが求められつつ、分かれていくのではないかと思っている。前者については、いわゆる名局を作れるかどうかという能力が問われ、おそらく藤井聡太四段はこちらのカテゴリーで活躍するに違いない。

物語化するというのは、単に手の良し悪しを言うのではない。関係者の人間模様、棋士の性格・発想・経歴などを織り交ぜながら、一手・一局・棋戦・将棋界を語るというものである。故・河口俊彦老師はこちらのカテゴリーに入るであろう。

マネジメントはプロ団体の経営にとどまらない。街中の道場あるいはネット・TVで楽しむファン層の拡大、プロを目指す若い世代の育成など様々な課題が山積みである。そうしたマネジメントを担う役割を現役の棋士に限る必要は無い(囲碁のプロ団体では理事長や理事を有識者から迎えていることもある)。とはいえ、プロの世界のことを全くプロを欠いたままマネジメントを行うということは考えにくい。どのようなガバナンス体制の構築・実際のマネジメントが望まれるのかについては、ここでは触れないが、そうしたことを担う棋士をきちんと育成することも重要であろう。
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